マーケティング活動においてインサイトが注目されています。消費者のインサイトを理解することにより、競合他社と差別化を図れる可能性があります。
そこで本記事では、マーケティングにおけるインサイトの概要、インサイトマーケティングが注目される理由、メリット・デメリット、インサイトを見つける手順、代表的な調査方法
などを解説していきます。インサイトを活用した企業の成功事例も紹介するので参考にしてください。
目次
マーケティングにおけるインサイトとは
まずはマーケティングにおけるインサイトの意味と、インサイトマーケティングの概要について説明します。インサイトマーケティングをスムーズに導入するためにも概要を押さえてください。
インサイトの意味
インサイトとは、洞察・直感・発見などの意味がある言葉です。マーケティングにおけるインサイトとは、消費者が商品・サービスを購入する動機や根拠を指します。ただし「消費者自身が自覚していない動機や根拠」という点が特徴的です。
ビジネスの現場でインサイトと表現されることもあれば、顧客インサイト、消費者インサイト、ユーザーインサイトと呼ばれるケースもあります。基本的にはどれも同じ意味合いです。
競争が激しい現代で競争に打ち勝つには、消費者の顕在ニーズだけではなく、潜在ニーズを捉えることが大切です。そのために欠かせない概念がインサイトといえるでしょう。
インサイトマーケティングとは
インサイトマーケティングとは、自社のターゲットとなり得る潜在顧客のインサイトを深掘りし、新たなニーズと市場の創造を図るマーケティング戦略です。既存市場の需要を考慮したマーケティング活動ではなく、新しい着眼点からニーズを創出する方法ともいえます。
代表的なインサイトの事例にApple(アップル)があります。iPodという携帯オーディオプレイヤーによって「音楽はCDで聞くもの」という価値観が一変し、iPhoneという画期的なデバイスによって電話とインターネットの世界にイノベーションが起こっています。
このように、消費者が未だ認識していないニーズを発掘したうえで、顧客とマーケットを創造するという目的がインサイトマーケティングにはあります。
インサイトマーケティングが注目される理由
マーケティング戦略においてターゲットの購買心理を理解することは重要です。スムーズな販売戦略の立案につながるだけでなく、競合他社との差別化を図れるからです。
かつては購買チャネルが限られていたものの、現在はネットショップやオークションサイトなど多様化しています。また、スマートフォンやSNSの浸透により、消費者の情報リテラシーは向上し、ニーズの高度化と多角化も進行しています。このような状況で自社の商品・サービスが選ばれるには、インサイトの理解が大切です。
インサイトマーケティングによって売上がアップするだけではなく、自社のファンが増えたり、ロイヤルカスタマー(商品・サービス・企業に愛着心を持つファン)の育成につながったりといった効果も期待できます。
インサイトと潜在ニーズの違い
消費者インサイトと潜在ニーズはどちらも無意識下の欲求です。しかしインサイトは消費者自身が認識していない欲求である一方、潜在ニーズは深層意識下で認識している状態という違いがあります。
なお、ニーズには潜在ニーズだけではなく、顕在ニーズという領域もあります。詳しくは次項で解説します。
顕在ニーズとは
顕在ニーズとは、消費者が表層意識で自覚している問題や悩みなどを意味する概念です。例えば、資格試験に合格したいと考えている社会人が資格スクールの対策講座を求めるような心理状態をいいます。
顕在ニーズは消費者の欲求が具体的なため、商品・サービスを提供する企業としても、需要動向を把握しやすいという特徴があります。
先述した資格業界は顧客ターゲットが広いものの、実績豊富なスクールも多いため、顕在ニーズだけを意識した新規参入は難しい可能性があります。その場合は次に説明する潜在ニーズの理解が大切です。
潜在ニーズとは
潜在ニーズは表層意識では認識できていないものの、深層意識では認識できている状態を指します。資格に合格したい社会人を例に挙げると、表層意識では資格スクールの講座を求めていますが、深層意識では「人生を変えたい」というニーズが見込まれることがあります。そのための手段として「資格試験に合格したい」と考えている傾向があるのです。
この場合、資格スクールが潜在ニーズを捉えるには、対策講座の内容だけをアピールするのではなく、「合格によって開業や転職という道が開ける」や「資格を活用することで年収アップが期待できる」といった変化を伝えることがポイントになります。
ただし潜在ニーズは顕在ニーズよりも曖昧で抽象度が高いため、プロモーションが難しいという点には注意が必要です。
消費者インサイトと潜在ニーズの違い
消費者インサイトと潜在ニーズの違いを前述しましたが、ここでは具体例を交えて解説します。まず双方で共通しているのは無意識下の欲求でした。ただし消費者インサイトは深層意識下で自覚していない欲求である一方、潜在ニーズは深層意識下で自覚しているという部分に違いがありました。
例えば、自動車が登場する以前に「もっと速い馬車が欲しい」という欲求は潜在ニーズに該当します。一方、自動車が登場したことで、はじめて「馬車よりも便利な乗り物が欲しい」という感覚が消費者インサイトです。
このように、潜在ニーズには消費者の本音という意味合いがある一方、消費者インサイトは未だ存在していない商品・サービスであり、登場後にはじめて欲しいと思えるものといえます。
インサイトをマーケティングに活用するメリット・デメリット
インサイトをマーケティングに活用するメリットとデメリットについて解説します。
メリット
マーケティングにインサイトを活用することにより、商品・サービス、ビジネスモデルにイノベーションが起きやすいというメリットがあります。イノベーションの創出によって消費者との信頼関係が深くなり、市場シェアの拡大や優良顧客を確保できる可能性があります。
そもそもインサイトを追求する目的は、消費行動の転換点を見つけることです。そこには新たな商品やサービスの開発につながるヒントが隠されています。
「本当はこの商品が欲しかったんだ」と思ってもらえる商品・サービスをリリースすることにより、消費者の購買意欲をかきたてるだけでなく、自社のブランド力の強化も期待できます。
デメリット
インサイトマーケティングのデメリットに「実践的な方法として確立していない」が挙げられます。そもそも「消費者の行動は非合理で無意識に支配されている」というインサイトの考え方には、「行動を丁寧に分析すれば合理的に説明できる」という反論も多いのです。
そのため、インサイトをマーケティングに活用するには、仮説を立てて実行し、検証を続ける必要があります。唯一絶対的な分析方法があるわけではなく、手探りで行われている手法という認識が大切です。
マーケティングに必要なインサイトを見つける方法・手順
マーケティングに必要なインサイトを見つける手順は以下です。
- ● データを収集する
- ● データを分析する
- ● フレームワークを活用する
それぞれのステップを解説していきます。
データを収集する
まずは定量的・定性的なデータを収集します。
定量的とは、数値で把握可能なデータのことです。SNSのコメント数や自社サイトのアクセス数などが該当します。定量的なデータは全体的な傾向の理解に役立ちます。
定性的とは、数値で把握しづらいデータのことです。消費者の感情や心情などが該当します。定性的なデータは個別具体的なインサイトの理解に役立ちます。
注意点として、定性的なデータを収集する際は、複数人のサンプルを集めることが大切です。一人の見解のみでは結果が偏ってしまうからです。
定量的・定性的の双方からデータを集めることにより、インサイトの詳細な傾向を把握しやすくなるでしょう。
データを分析する
定量的・定性的なデータを分析するステップです。その際はツールの活用がおすすめです。主なツールにアクセス解析とCDP/プライベートDMPがあります。
アクセス解析 とは、サイトを訪れたユーザー数、閲覧されたページ、閲覧時間などを分析するツールです。専用のタグをサイト内に埋め込むことで計測ができます。後述する『Quid Monitor(旧NetBase)』と『Rivai IQ』はSNSの解析に対応しています。
CDP/プライベートDMP とは、顧客データの収集と統合を管理できるツールです。外部データと組み合わせることも可能です。主なデータ内容として、顧客の氏名、生年月日、住所などの情報や、eコマースやPOSシステムで取得した購買データなどがあります。
ペルソナ設定や共感マップを作成する
インサイトを発見するためには、ペルソナ設定や共感マップを作成することがポイントです。
ペルソナ(persona) とは、顧客の具体的なイメージを指します。属性や情報を細かく設定することにより、消費者視点で商品・サービスを検討できるというメリットがあります。氏名、性別、年齢、居住地、仕事、年収、趣味など、現実に存在しそうな消費者を詳細に設定するのがポイントです。
共感マップ とは、ペルソナ視点で考え方、感じ方、行動などを図でまとめたものです。よりユーザーの内面に注目したフレームワークであり、課題や欲求へのアプローチ方法を考えやすいというメリットがあります。具体的な項目として、考えていること・感じていること、聞いていること、見ていること、行動などがあります。
したがってインサイトを発見するためには、まずペルソナを設定し、共通した顧客のイメージを組織全体で認識します。その上で顧客の視点に立った施策を立案することが大切です。さらに共感マップを作成することで、自社の商品・サービスを顧客の課題解決につなげられそうか、顧客の欲望を満たせそうかなどを把握していきます。
インサイトを調査する代表的な手法
インサイトを調査する代表的な手法に以下があります。
- ● ソーシャルメディア分析
- ● インタビュー調査
- ● 行動観察調査
- ● MROC(エムロック)
それぞれ解説するので参考にしてください。
ソーシャルメディア分析
X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、YouTubeのようなソーシャルメディアにはユーザーの投稿が集まっています。商品・サービス名で検索することにより、消費者のリアルな感想を収集できる可能性があります。潜在顧客や見込み客の欲求を把握していれば、キーワードで検索することにより、インサイトの手がかりがつかめるでしょう。
SNS分析を手動で行うのは限界があるため、ソーシャルリスニングツールの活用を検討してください。ソーシャルリスニングツールとは、SNSの情報を収集・分析し、マーケティングやブランディングに活用するためのツールです。
『Quid Monitor(旧NetBase)』は市場・競合調査、効果測定、リスク対策まで幅広く活用できます。また、『Rivai IQ』は企業サイトのURLを登録するだけでデータの自動収集・分析が可能です。
インタビュー調査
インタビュー調査とは、インタビュアーが対象者から話を聞いて情報収集する方法です。定性的なデータ収集の一種であり、対象者の思考や価値観を可視化するという目的で実施されます。人数が限定されているため、顕在意識を理解しやすいという特徴があります。
主な実施方法として、グループインタビューとデプスインタビューがあります。グループインタビューは3〜7人程度、デプスインタビューは1対1のインタビューです。グループインタビューは話が広がりやすく、デプスインタビューはパーソナルな部分まで聞きやすいというメリットがあります。
インサイトは無意識下の欲求なので、インタビュー調査だけで直接理解するのは難しいといわれています。ただしインタビュー調査をきっかけとして、インサイトを発見するヒントを得られるかもしれません。
行動観察調査
行動観察調査とは、対象者の行動を観察するリサーチ方法です。調査する者は対象者の自宅を訪れ、話を聞きながら調査を進めます。ただし行動観察調査の定義は幅広く、街中で消費者の行動を観察する行為も含まれると考えられています。
行動観察調査によって予想外の発見を得やすいというメリットがあります。インタビューよりも本音を引き出せる可能性も高いでしょう
インタビュー同様、行動観察調査のみでインサイトを直接理解するのは難しいかもしれません。ただし、対象者がどのような生活環境に身を置き、どのような店舗を利用しているかを知ることは、インサイトを発見する糸口につながります。
特にランディングページの作成や、商品・サービスのプロモーション活動に効果的な調査方法と考えられています。
MROC(エムロック)
MROC(エムロック)とは、オンライン上で対象者のコミュニティを構築したうえで、ディスカッションやアンケートなどを行うリサーチ方法です。インタビューのように短時間の調査ではなく、1〜2ヵ月程度、継続しながらリサーチを進めるため、より深い情報を得られる可能性があります。
定性調査(ディスカッション)と定量調査(アンケート)を組み合わせるため、従来型のグループインタビューやネット調査よりも、消費者のインサイトを効率的に抽出できると考えられています。ただしオンライン上のコミュニティ構築や、継続的な調査によって時間と労力がかかる点はデメリットといえます。
なお、MROC(エムロック)の定番的な活用のパターンにコンテンツ提示型、宿題型、生活密着型、定量調査型がありますが、インサイトの抽出に効果的なのは定量調査型です。
インサイトを活用するときの注意点
インサイトを活用する際の注意点として以下があります。
- ● 使用する際はエビデンスを示す
- ● インサイトは可視化するのが難しい
- ● 企業の印象が悪くなるリスクがある
それぞれ解説していきます。
使用する際はエビデンスを示す
インサイトは消費者の無意識下の認識であるため、明確なエビデンスの提示は難しいと考えられています。それでも、可能な限りエビデンスを示すことが大切です。
前述したソーシャルメディア分析、インタビュー調査、行動観察調査、MROC(エムロック)を組み合わせながら、継続的にデータを収集します。定量的・定性的の両側面からのリサーチがポイントです。
マーケティングの意思決定者が「消費者インサイトとして説得力がある」と納得できる程度に根拠を積み上げる必要があるでしょう。
インサイトは可視化するのが難しい
インサイトはエビデンスの提示が難しいだけでなく、数値やデータによる可視化も難しいという特徴があります。ただし社内で共通のフレームワークを使用することにより、ある程度まで見える化が可能です。
例えばカスタマージャーニーマップを導入することで、顧客の購買プロセスを把握しやすくなります。その結果、意思決定、分析、戦略立案の共通基準につながるため、インサイトの分析や管理を行いやすくなります。
企業の印象が悪くなるリスクがある
インサイトは消費者自身が認識していない欲求であるため、ストレートな表現で広告に採用すると印象が悪化するリスクがあります。特に不安をあおるタイプの訴求には注意が必要です。
たとえば、「痩せられない」と無意識で考えている人向けに、肥満体型の男性が食事している画像で訴求しても、決してよい印象を与えないでしょう。短期的に商品・サービスの売上が伸びる可能性がある反面、SNSの炎上リスクも考えられます。
インサイトを踏まえて訴求する場合は、企業のブランドイメージが悪化しないように配慮することが大切です。
インサイトをマーケティングに活用した企業の事例
インサイトをマーケティングに活用した以下4社の事例を紹介します。
- ● フォルクスワーゲン
- ● 日清食品株式会社
- ● 大戸屋ホールディングス
- ● ライオン株式会社
フォルクスワーゲン
自動車メーカーのフォルクスワーゲンは、アメリカでの「Think big(大きい車が理想)」という考え方に対して、「Think small(小さい車が理想)」を掲げ、コンパクトで性能のよいビートルのプロモーションを展開しました。「ビートルを選ぶのは賢い消費者」という優れた広告クリエイティブもあり、アメリカ国内で爆発的に販売台数を伸ばした事例です。
「万人にとって大型車がベストとは限らない」という観点から、「家族で乗る分には小型車のほうが便利で費用も抑えられる」という消費者インサイトを発見したケースです。
日清食品株式会社
日清食品株式会社では、「インスタント食品は若者の食べ物。シニア層は健康を害すると捉えている」というイメージに対して、贅沢な食事を選ぶアクティブシニア層に着目し、カップヌードルリッチを発売しました。
カップヌードルリッチは健康に配慮しながらも、フカヒレやスッポンなどの高級食材を使用しています。通常のカップヌードルより高額にもかかわらず、発売から7ヶ月で1,400万食を突破という大ヒットを記録しました。
「全てのシニアが健康志向というわけではない」という観点から、「健康のためにおいしさをあきらめない」という消費者インサイトを発見した事例です。
大戸屋ホールディングス
和定食の「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋ホールディングスでは、「定食店のメインターゲットは満腹になりたい男性」というイメージに対して、「一人で外食するのが苦手」という女性客に着目し、地下や2階以上の店舗を増やしました。野菜を摂取できるメニューやカロリー表示、清潔感のある内装も効果を奏し、女性客の心をつかんでいます。
「なぜ女性客は一人での外食が苦手なのか」を調査した結果、「実は外食が苦手なのではなく、一人で店に入る姿を他者に見られたくない」という消費者インサイトを発見した事例です。その結果、他者に見られる可能性が高い1階ではなく、地下や2階以上の店舗を増やしたというケースです。
ライオン株式会社
洗剤販売のライオン株式会社では、「洗浄力を重視して洗剤を選ぶ」という考え方に対して、「洗濯物がきれいかどうかの判断は匂い」という主婦の考え方に着目し、液体洗剤のトップナノックスをPRしました。「匂いまで落とす」というキャッチコピーも効果を奏した結果、顧客の支持を集めてシェアの確保につながっています。
「必ずしも洗浄力が強い商品が売れるわけではない」という観点から、「匂いにこだわる主婦が多い」という消費者インサイトを発見した事例です。
なお、ライオンが販売するトップに関しても、若年層を中心に支持を集めています。
インサイトマーケティングにはソーシャルリスニングツールの活用がおすすめ
インサイトマーケティングとは、潜在顧客のインサイトを深掘りし、新しい着眼点からニーズを創出するマーケティング戦略です。イノベーションの創出や市場シェアの拡大、優良顧客の確保というメリットがあります。
インサイトを見つけるには、データ収集、データ分析、フレームワークの活用の順に考えるとよいでしょう。代表的な調査方法にソーシャルメディア分析がありますが、実際に分析を行うには、ソーシャルリスニングツールの活用が効果的です。
『Quid Monitor(旧NetBase)』はX(旧Twitter)、Facebook、Instagram、YouTubeといったソーシャルメディアの分析をスムーズに行えるソーシャルリスニングツールです。掲示板、レビューサイト、ニュースサイトの分析にも対応しています。
『Rivai IQ』は企業サイトのURLを入力するだけで、SNSの公式アカウントからデータを自動で取得できるツールです。競合企業の比較分析をはじめ、多彩な分析機能に対応しています。
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